徳島県・上板町。
前回の「通し」見学からおおよそひと月。寒さが1年で最も厳しい寒(かん)となる季節。2012年の小寒は1月6日ということで、訪問日(1月5日)翌日から、いよいよ寒さのピークに入るといった時期です。
この「寒入り」というのは、スクモ作りにおいて大きな意味をもっており、この時期にスクモ作りが終わるのにも理由があるようです。
今回の取材では、その理由を見学するとともに、1年がかりで行われるスクモ作りの仕上げ直前の「切り返し」作業をご紹介します。
※ もくもく・・・。発酵が進むことでスクモが熱を帯び、気温差から湯気があがる。
スクモ作りの仕上げ。
前回ご紹介(1月2日の記事)した「通し」は、「切り返し」を行ったスクモに”10番水”を打った後、粉砕機でこまかく砕いて発酵ムラをなくす、という作業でした。この「通し」が終わると、また「切り返し」の作業を繰り返し行います。
取材当日は”13番水”の頃で、前回訪問時よりさらに「切り返し」を行った状態でした。
※ 阿波藍作りの道具「こまざらえ」で藍を混ぜる様子。混ぜるたびに湯気が立ちのぼる。
「切り返し」とは、
- 木製の「四ツ熊手」で切り、
- 「はね」で返し、
- 「こまざらえ」で混ぜ、
- 元の高さ(約1メートル)に納める。
という作業です。この作業はスクモが完成するまで行われます。
筆者は「そういえばこういうシーン、新聞で見たことあるな・・・」と思って見ていましたが、実際に見てみると手間暇を惜しまない、本当に大変な作業であることがよくわかります。
※ 両手持ちのひしゃくに水を汲み、スクモに打つ様子。
水を打った後は、スクモ作りの道具で発酵にムラがないよう丁寧にかき混ぜます。水を打ってはかき混ぜ、かき混ぜては整え・・・この作業がひたすら繰り返されます。
※ スクモ作りに使われる道具。右から四つ熊手、はね、こまざらえ。
※ 水を打った後は、道具を使って水が隅々までいきわたるよう混ぜます。
※ 切り返し作業中。床には元々あったであろう位置がクッキリ。
こうして、寝床(スクモを作る部屋)の真ん中にあったスクモは1~2メートルほど部屋の奥側に移動し、壁際に積み上げられます。壁際に積み上げられたスクモは、上の写真でもわかる通り、元あった位置まで積戻します。この作業を繰り返し行うことから、寝床奥の壁には濃紺色の跡が残る、というわけです。
※ 使用済みの「ふとん」は、洗った後に乾かして、積戻しの際に敷き直します。
※ 新しい「ふとん」を敷いて積戻しの作業を行います。
※ 切り返し中にそっと手に取ったスクモ。ほんのり湿気を感じます。
ところで・・・
冒頭で
- この「寒入り」というのは、スクモ作りにおいて大きな意味をもっており、この時期にスクモ作りが終わるのにも理由があるようです。
と書きましたが、この理由というのは仕上げに使われる「水」にあります。
昔から、「寒の水を使ったもの(味噌や酒など)は腐りにくい」と言われている「寒」の時期の水。雑菌の繁殖が抑えられるこの時期の冷たい水だからこそコントロールがしやすく、酒造りなどにも適しているのですが、スクモ作りにとっても例外ではありません。
この時期の水を使って仕上げること・・・
昔から決められている決め事。昔の人たちは、長年作業を繰り返す中で、そうした現在では化学的に実証されていることを経験として知っており代々言い伝えてきたというわけです。
※ 水。かなりの冷たさです。
雑菌の少ない、澄んだ水で仕上げられたスクモは、さらに切り返しの作業を行った後、しばらく寝かせて完成となります。完成したスクモは藍師の印を押した俵(叺:かます)に入れて出荷されます。出荷されたスクモは、全国の紺屋・工房に届けられ、天然藍独特の落ち着きある風合いとその演出へとつながっていきます。