徳島県の手漉和紙の歴史は古く、奈良時代に忌部氏が作った紙が朝廷に献上されたという記録があります。
平安時代、京都に図書寮が置かれ官製紙が漉かれているが、この頃、紙を上納する国は40数ヶ国もあり、もちろんこの中に徳島も含まれていました。
天正13年(1585年)蜂須賀家政が入国し、産業振興に努め、産業の4木として楮(こうぞ)、桑、茶、漆を定め、特に楮(製紙業)を保護奨励しました。この奨励策により、川田の製紙業は益々盛んになり、尺長紙、中川紙、伊賀紙、仙貨紙、七九寸紙、黄煎紙など阿波手漉和紙の声価を広く天下にとどろかせました。
明治維新以後は消費生活の変化にともない紙の需要は激増し、明治中期には製造戸数は250戸を数え、最盛期に入っています。明治18年にはじめて製紙同業組合を設立し、経営の合理化をはかりました。また、販路開拓として、シカゴやパリの万国博覧会、内国博覧会などへ典具帳紙や骨皮紙(コピー紙)などを出品し、賞状や進歩賞などを授与されています。
しかし、大正時代に入り大量生産の機械製紙に対抗できず、ついには市場からしめ出され、明治44年の222戸の製造戸数が大正10年には159戸となり、昭和3年には40戸に減じ、今日では専業は1社となっています。
この1社は昔ながらの技法を継承し、阿波手漉和紙の伝統を守りつづけ、昭和45年には徳島県無形文化財に指定されました。
昭和51年、阿波和紙は経済産業大臣が指定する伝統工芸品に指定されました。
古くから和紙の原料は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)の靭皮(植物の外皮の下にある柔らかな内皮)繊維を中心に使われてきました。それぞれに優れた特質があり、いずれも繊維が長く強靱で、光沢があり、和紙の特徴である薄くて強い性質をもっています。
これ以外に、麻、桑、竹なども原料として使われ、書道用紙には木材パルプ、藁(わら)なども使われており、最近では野菜、野草、土などを入れて美術用、工芸用、和紙を漉くこともあります。
楮はクワ科の落葉低木で、成木は2メートル余りになる。繊維は太くて長く強いので、障子紙、表具用紙、美術紙など原料として最も多く使用されている。
三椏はジンチョウゲ科の低木植物で、枝分かれの状態がほとんど三つになっている。成木は2メートル余りになり、苗を植えてから3年ごとに収穫できる。繊維は柔軟で細くて光沢があり、紙の表面がなめらかで上品な印象を持つ。
雁皮はジンチョウゲ科の低木植物で、成木は2メートル余りになる。生育が遅く栽培が難しいので自生している雁皮を生剥ぎにして捕獲する。楮の強さと三椏の光沢感を兼ね備え、繊維が細く短いために半透明で光沢のある紙が漉ける。
徳島県吉野川市、那賀郡那賀町、三好市池田町
楮は落葉した後11月から12月に収穫され、四尺(1.2メートル)に切りそろえられる。剥がされた黒皮は束にして風通しの良い所で乾燥させる。
数時間から一晩水に漬けて柔らかくなった皮を、ナイフで青皮を削り取る。出来上がった白皮は、乾燥させて冷暗所に保管する。
保存してあった楮を水に漬けて柔らかくし、アルカリ液で煮る。沸騰後2時間位で、指で引っ張ってちぎれるようになったかどうか検査する。
煮熟完了後、一昼夜放置し蒸らす。その後、流水に入れてあく抜きをし、非繊維物質を取る。次に水中にかごを入れて丁寧にちりを取る。
たたき棒で板の上にのせた束をたたいて、繊維を一本ずつばらばらにする。現在では機械を使用して繊維を水中に遊離分散している。
~「流し漉き」と「溜め漉き」~
流し漉きには「掛け流し」「調子」「捨て水」の三つの工程がある。漉き上がったら、桁から簀をはずして紙床板(しといた)に手前から向こうへ剥がして積んでいく。
湿った紙を重ねてできた「紙床(しと)」を一晩置いて自然に水を流した後、板ではさみ圧縮機で、紙の層を傷めないように次第に強く、6時間余りかけ圧縮する。
一枚ずつ干板に張りつけ天日で乾かしたり、乾燥機で乾かす。仕上がった紙は用途により「ドーサ」「こんにゃく」「柿渋」等を塗ったり、さまざまな加工が施される。
手漉き和紙、加工紙、透かし入り、漉き込み、藍染和紙、染紙などがあります。
昔ながらの「流し漉き」と「溜め漉き」の技法を使って、職人が1枚1枚丁寧に漉いている。「耳」と呼ばれる、手漉きならではのランダムな四方を生かしてさまざまな製品に用いられる。
後染めした和紙に、にじみ止めのコーティング剤を施す「ドーサ引き」や耐水性を持たせる「こんにゃく引き」、和紙を2枚に貼り合わせて強度を持たせる「貼り合わせ」をして制作する。
藍染めは人工的な染料と違って、藍一色でその濃度を変えることによって柄を作り出していく。藍液に浸す時間や回数によって色が微妙に変化することから、熟練した職人の技を要する。
出来上がった和紙を後から染める「後染め」の技法の中に「揉み染め」や「板締め染め」「雪花染め」「藍染め」などがあり、それぞれの染めに豊かな表情を持つ。
道具に型紙を貼るとその部分だけ薄くなり、透かし模様となる技法を用いて、ロゴやトレードマークなどをはがき・便箋に入れたり、校章を卒業証書に入れたりして使用される。
和紙の主な原料以外に麻や木材パルプなどを混ぜたり、透かし模様を入れたりして、違った風合いを持つ紙は、阿波和紙の特徴の1つとしてさまざまな試みが行われている。
画仙紙、工芸紙、包装紙、障子紙
はがき、名刺、色紙掛、コースター等
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