阿波藍の概要
日本の藍は「JAPAN BLUE」として世界に知られ、インド産のインド藍、ヨーロッパ産のウォード等と並ぶ天然の藍染料です。タデ科の一年草で、特に徳島県産の藍は阿波藍として有名です。鎌倉時代の中頃、現在の美馬市のある地域で栽培し始め、その後吉野川市に中心が移り、江戸時代になって吉野川下流域が主要な産地になり、特に藩の保護奨励によって、日本最大の藍作地帯として知られるようになりました。 藍染めの方法には、生葉で染める「生葉染め(なまはぞめ)」もありますが、徳島県の藍染めは、阿波藍を原料にして、発酵建てという方法で染められます。
この方法は、葉藍を細かく刻んで発酵させて作られる「スクモ」を灰汁などで溶解し染め液をつくり(藍建て)、できあがった染液に布を浸け、空気にさらします(酸化して発色する)。それを何度か繰り返すと染め上がります。昭和43年に「阿波正藍染法」として、県の無形文化財に指定されており、服地やインテリア用品等の製品に利用されています。
阿波藍(蒅:スクモ)の製造工程
藍の種まきは3月上旬に、大安の日を選んで行う。藍の種は2mm位の大きさである。種を蒔き終えた後、御神酒を奉り1年の豊作を祈願する。
およそ1カ月後、苗が2~3cmになった頃、2cm四方に2~3本が残るように間引き作業を行う。種まきから約2カ月、定植間近の苗は20cm位に成長し、それを4、5本をひとまとめにして抜き取り、手頃な大きさになるようワラで束ねる。活着を良くするため、すぐ水に浸け、根に水分を保たせて本畑に運ぶ。
本畑は堆肥や石灰などを散布し、よく耕転しておき、間隔をあけて植える。定植は苗取りと併用して行われ、通常4月下旬から5月上旬にピークを迎える。
定植された苗は太陽の光と恵みの雨を受け、すくすくと育つ。藍作農家は、梅雨の合間も肥料を施し、草取りを行い、土寄せをして藍が大きく育つのを助ける。
梅雨が明けると、1度目の収穫時期「1番刈り」を迎える。藍の収穫作業は、6月下旬から7月上旬の晴天日を見計らって行われる。
刈り取った藍は、刈り株の上に置き天日で両面を乾かした後、庭に取り込みカッターで裁断し、風力によって葉と茎に選別する。これを「藍粉成し(あいこなし)」といい、仕上がった藍の葉は「葉藍(はあい)」と呼ばれる。
1番刈りの後、施肥、除草、害虫防除などの作業を行うと約1カ月で藍は再生し、2度目の収穫時期「2番刈り」を迎える。2番刈りの作業は、通常7月下旬から8月上旬に行われ、1番刈り同様藍粉成しされる。そして、葉藍は「ずきん」と呼ばれる専用の保存袋で、すくもの製造まで保管される。
9月の大安の日、その年の「すくも」作りが始められる。まず「寝床(ねとこ)」と呼ばれるすくもの製造場所に一番刈りの葉を入れる。1床当たり1000貫ほどの葉藍を積み、適量の水をかけよく混ぜ合わせ、1m位の高さに積み上げる。これがすくも製造の第一歩であり、「寝せ込み(ねせこみ)」という。
寝せ込み後、5日毎に水を打ち「切り返し(きりかえし)」の作業を行う。木製の「四ツ熊手」で切り、「はね」で返し、「こまざらえ」で混ぜ、元の高さに納める。4度目の切り返し作業の時に、2番刈りの葉藍を加え、以後同様の要領で切り返しを13回位行う。切り返しで行う水打ち作業は、すくもの良し悪しに大きく影響するので、長年の経験を積んだ「水師(みずし)」が管理する。
すくも作りの最中、2番刈りを終えた畑では、ふたたび再生した藍が花盛りを迎え、畑一面が薄紅色に染まっている。
12、13回目の切り返しの時「通し(とおし)」という作業を行い、すくもがムラなく発酵するように「ふるい」にかける。昔は「荒通し(あらどうし)」「中通し(なかどおし)」「上げ通し(あげどおし)」の3回の通しを行った。現在は、10月下旬に中通しを行い、11月下旬の17、18回目の切り返しの時に、上げ通しを行う。そして、この後も「切り返し」を続け、計22、23回位の時点で仕上がり。
すくもの出荷…寝せ込みから数えて約100日で仕上がったすくもは、家号の印を押した「叺(かます)」に1俵当たり15貫を入れ縄で縛り、全国の紺屋に向けて出荷される。
確認されている効用
藍は、肌荒れ、冷え性を防ぎ、防虫効果があり、殺菌効果があるので包帯にしても良く、水虫を予防し、まむしをよせつけず、その上鎮静剤としての効果もあると昔からいわれています。効用については、はっきりとしたことはわかりませんが、これだけ言われているのを考えると、使えば使うほど年月とともに輝く藍は、昔から身近に使用されていたものであると思われます。